
個体から液体、液体からまた個体へと形を変えるガラスの不思議さ、奥深さに魅了された木下宝さん。ガラス作りの原点を知るため、試行錯誤を重ねる木下さんの「今」を感じる作品の数々。
SAYSFARMギャラリーでは、人気のガラス作家・木下宝さんの新作を多数入荷しました。SAYSFARMのワインボトルをその形を生かしながらアップサイクルし新たな価値を生み出した代表作〈bottle origin/ボトルオリジン〉をはじめ、ガラスの原料に葡萄などの植物の灰を混ぜて自然由来の繊細な色を引き出したアクセサリー〈potash/ポタッシュ〉、葡萄の葉を葉脈なども残したまま灰にしてガラスの中に閉じ込めた〈ornament/オーナメント〉など、吹きガラスの技法を離れた多彩な表現方法による作品もあり、木下さんの新たな境地を垣間見ることができます。

もともと古代ガラスに興味があり、かつてのガラスの作り方、古代の人々の暮らしの中に根付いたガラス文化にも心惹かれていたという木下さん。欧州各地の博物館を巡り、紀元前から伝わるガラス製品を目の当たりにし、古代ガラスに関する文献を読み解いていく中で、「昔ながらの手法を取り入れることはできないか」と考えるように。ガラスを溶かすための燃料を薪や炭に置き換えたり、ガラスの主原料である珪砂に混ぜる溶融材に植物の灰を用いるなど、古代の手法にならい試行錯誤を続ける中で、木下さんは次第に山とのかかわりを深めていきます。

「必要な原料の多くは山にあります。木の枝や間伐材などを手に入れるため、県内のいろいろな山に通うようになりましたが、同じ種類の植物でも育った土地によって含まれる成分に大きな違いがあることも発見でした」。例えば、〈potash/ポタッシュ〉で表現される繊細な色のもとになっているのは、植物が持つミネラル。植物が土壌から吸い上げる栄養素により、灰にして珪砂に混ぜた時の発色が異なるといいます。また、窯の状態によっても発色は微妙に異なり、「思い通りの色を出すことは難しく、毎回翻弄されています。でも、翻弄されていいなと思っています」。

最近は、山間地の環境保護活動にも力を入れているという木下さん。2024年元日の能登半島地震の際は、山の水源整備を行う団体のメンバーの一員として、ボランティアで奥能登を訪れていました。「山の生態系が保たれ、山が機能しているからこそ、水が流れ、お米や作物が育ち、町の暮らしが成り立つのだと感じています」。自分たちの生活や創作活動の源も、山にあり自然にある。そういう境地に辿り着いたと笑顔で語る木下さんの「今」を感じる作品の数々、SAYSFARMギャラリーでぜひご覧ください。
